本研修は、児童相談所の中堅の児童福祉司又は児童心理司を対象に、児童虐待対策、とりわけ予防から措置後の自立までを視野にいれた、専門職員同士および児童相談所と地域の関係機関のネットワークによる支援技術の向上を目的としています。平成20年度から実施され、本年度は定員60名に対し、受講者58名、全国津々浦々からご参加いただきました(平成22年11月17日~19日:3日間)。
近年では、虐待や新しい貧困などを含む、社会的排除という保健医療福祉にまたがる新たな社会のリスクに対して、一機関で問題を抱えこむのではなく、地域の「関係機関連携による効果的対応」という新たな技術・機能を修得・発揮することが、公的保護・措置機関の急務となっていることは、皆様も実感されているところだと思います。
連携といっても、組織内での連携、県(児童相談所)と市町村といった自治体間の連携、保健・医療分野と福祉分野(児童相談所)、司法といった他分野の連携など多様ですが、本研修の特徴は、保健医療との連携、保健医療分野の知見の福祉への活用といった点を重視している点です。児童虐待に関する全国研修は他でもありますが、福祉機関である児童相談所の皆さんが、保健医療の専門的知見を重点的に学べる場を提供することは、保健医療科学院ならではの強みです。また、そのことは、虐待対応において非常に重要であり、現場の研修ニーズも高いものとなっています。研修企画も、本研修の主任は福祉サービス部ですが、副主任や院内講師陣には、福祉サービス部、公衆衛生看護部、生涯保健部、政策科学部の職員が加わるなど、他分野協働体制でとり組んでいます。
3日間の研修は大変好評でしたが、中でも好評であった内容として、政策科学部の先生がご担当された「事例の検証手法 ~医療安全に学ぶ(演習)」がありました。このコマは、医療安全分野で発展してきた医療事故の予防のためのRCA(根本原因分析)の手法を、児童虐待分野に活用することが目標となっています。RCAに関する基礎的講義の後、実際にその手法を適用して事例分析を行なう演習をしました。「地域内で発生した虐待の重症事例(架空)」をとりあげ、その発生を、個人のミスではなくシステムの問題として捉え、予防にむけた課題を見つけていく作業です。児童相談所の職場で日常的に実施されている「ケース検討」とは、視点も手法も大きく異なっており、参加された方は、違いに戸惑いつつも、新鮮な気持ちで、また、活用できるという実感をもちながら、熱心に取り組まれていました。その成果が、以下の写真です!
<研修風景「事例の検証手法 ~医療安全に学ぶ(演習)」 写真参照>
本演習で取り組んだ分析手法について、今年度の参加者からは、面白い、早速職場での活用を検討したい、との声がありました。また、昨年度の研修参加者を対象に今年秋に実施したフォローアップ調査の結果でも、早速職場で役立てているといったコメントもありました。保健医療福祉の連携を、人材育成においても進めることの意義を、企画者側も大いに実感する研修です。。。こうした声を励みに、今後も、研修内容を充実させていければと思っています。
研修副主任 福祉サービス部 森川美絵