「水道工学研修」は全国の水道事業体、都道府県水道関係部局、保健所、地方衛生研究所等で水道に関する業務に従事する相当経験のある技術者を対象とした研修であり、水道水の安定供給とその安全性および快適性を図る上で必要な、水道工学等に関する最新の専門知識と技術を養うことを目的としています。本年度は9月16日(火)から10月24日(金)まで、実質27日間の研修で、全国から29名(定員20名)の研修生が受講しました。内訳は水道事業体23名、都道府県の衛生行政関係、保健所等5名、その他(独立行政法人)1名となっています。講師には水道工学部職員の他、厚生労働省、大学、水道事業体、日本水道協会、水道技術研究センターなどの外部講師を招き、学術的な講義から実際の現場に即した内容まで幅広く対応しています。講義内容も水道の水源から浄水技術、水質、家庭内の給水装置に関することはもちろんですが、水道行政やリスク管理まで広範な範囲にわたっています。これは水道が多くの分野の業務から成り立っているためであり、私たちの生活に欠くことのできない社会基盤としての水道をこれからも維持していくためには、それぞれの専門分野を持つ技術者がお互いの仕事を理解することが必要だからです。
研修の中では講義の他、「セミナー」として毎年特定のテーマを決め、講師から話題提供をいただき、その後、講師と研修生(水道工学部の職員も含め)でディスカッションを行うという時間も設け、講師、研修生間の意見、情報交換ができるような工夫もしています。本年度は事業体の枠を超えて水系ごとで行っている原水水質管理について、利根川・荒川水系、相模原・酒匂川水系、淀川水系の3つの協議会から講師をお招きし、研修生と討論を行いました。ちなみに昨年度、一昨年度は危機管理、技術継承と人材育成をテーマとしたセミナーを行っています。「実地見学」ではまだ全国的には数の少ない、高度浄水施設や膜ろ過型浄水場の見学をおこない、新しい知見をひろめてもらいました。
また研修の最後には本研修の目玉とも言える2週間あまりの「特別研究」があります。これは研修生が課題ごとに2~3名のグループに分かれ、実験あるいは文献調査により問題点を整理し結果をとりまとめ、お互いに成果を発表するもので、本年度は11課題について各グループ質疑応答を含め30分の発表を行いました。個人的には話題が多岐にわたるため10分の質疑応答は時間が長いかとも思っていたのですが、活発な質問、意見等が出て予定時間を少し超過するペースとなりました。課題のいくつかを紹介すると、気候変動と水道水質管理といった将来的、計画的課題、未規制小規模水道における適正管理のあり方に関する調査研究といった行政対応的課題、ナノろ過や医薬品類の除去といった最新の処理技術、水質に関する課題、老朽化した配水管等の更新に関わる課題など、行政、技術、開発的、現場対応といった広範な分野にまたがっています。研修生もそれぞれの発表を聞くことで個々の問題に対して具体的な事例、解決策等について学ぶことができ、毎年、研修生からも高い評価を得ています。
6週間という比較的長い研修ですので、研修生同士のつながりも深くなります。研修で学んだこと、体験したことと共に、ここで培った研修生同士のつながりも活用して、日々の仕事に活かしていただきたいと願っています。
「水道工学研修」 研修主任 伊藤 雅喜 (水道工学部)