admin: 2014年3月アーカイブ

本研修は、地方衛生研究所、保健所、水道事業体等の公的機関において、水道原水等のクリプトスポリジウム試験に携わっている方、または今後携わる可能性がある方を対象として、水中に存在するクリプトスポリジウムを検出するための試験方法、ならびに、水道のクリプトスポリジウム対策に関する専門知識の習得を目的として実施しております。

クリプトスポリジウムは、ヒトに加えてウシやブタなどにも感染する、人畜共通感染症の原因となる病原性の原虫です。主に飲食物を介してヒトに感染、強い下痢を主な症状とし、悪心、吐気、発熱を伴う場合があります。健常者であれば、おおよそ1週間以内には快復しますが、年齢や患者の免疫状態により重篤度は異なっており、重度の免疫不全患者には致命的となる場合もあります。 

厄介なことに、クリプトスポリジウムは塩素に対して強い耐性を持つため、わが国の水道で必ず用いられる塩素消毒では、ほとんど不活化が期待できません。従って、他の浄水処理のプロセス(凝集沈殿、砂ろ過、膜ろ過、紫外線処理など)による除去や不活化が欠かせず、水道にとって極めて重要な病原体として位置づけられています。水道水を原因とする集団感染の事例として、平成5年には米国ミルウォーキーにて40万人以上の罹患者が発生、死者も確認されました。また、平成8年には埼玉県越生町にて8,812人の罹患者が発生し、これを契機として、本研修が実施されることとなりました。

さて、本研修の特色として、10日間の研修期間中のうち7日間以上を、クリプトスポリジウム検査技術の習得に向けた実習に充てている点が挙げられます。本研修の副主任でもある国立感染症研究所寄生動物部の先生方や、検査の実務経験が豊かな外来講師の先生方を中心として、受講生に対して熱心な技術指導を行っております。研修期間を通じて、試料の濃縮、精製、顕微鏡観察、判定に至る一連の操作を繰り返し行い、さらに、受講生への個別の口頭試問や、観察写真の講評を実施することで、短期間での検査技能の向上と定着を図っております。

また、クリプトスポリジウムの公定検査法に関する近年の動向として、従来の顕微鏡観察に加えて、平成24年度より遺伝子検査が追加されました。当研修でも、従前から座学講義に遺伝子検査の解説を入れておりましたが、これをふまえて、平成23年度より定量的PCR法による遺伝子検査を実習の中にも盛り込みました。

以上の取り組みにより、例年、本研修に対しては受講の希望が多く、受講生の皆様方からも総じて高い評価をいただいております。平成25年度は23名が受講され、全員が口頭試問に合格、修了証を授与されました。

なお、平成26年度より、本研修の開催期間は冬季から夏季に変更されております。平成26年度の開催は630日~711日、受付期間は41日~430日となります。受講をご検討いただく際には、ご留意のほどよろしくお願い申し上げます。

研修副主任:島﨑 大(生活環境研究部)

短期研修「食品衛生危機管理研修」を120日~27日までの3週間で開催しました。受講者は49名で、各地方自治体、地方厚生局、検疫所から参加いただきました。 

研修では、広域化する食中毒や感染症と同じように少量の病原体で発症する食中毒に対応するため、疫学演習や遺伝子解析でのネットワークに関する講義等を行いました。

食品は全国的、全世界的に流通しており、その安全確保も、広域の流通に合わせた対策が求められています。一方、行政単位は住民への対応に適したサイズになっているため、食品安全のためには行政単位を超えたネットワーク作りが欠かせないものとなっています。

この研修では、課題研究という研修生が自ら日常業務での疑問点・問題点を持ちより、グループワークにより解決の方策を検討し、発表、討論を行ったり、疫学演習等でもグループでの検討を多く取り入れたり、ネットワーク作りが進むように多少の配慮をしております。しかし、今回の研修で特筆すべきことは、研修生が入寮者を中心に食事の提供等による緩やかな繋がりのコミュニティを形成し、研修生間の繋がりが非常に強くなったことだと思います。これは自治体の人員の削減等から教育・訓練や新たな方策の検討等を行うことに困難を感じている研修生が、自ら必要を感じてネットワーク作りを行った結果だと思われ、私には非常に頼もしく感じられました。

自治体の枠を超えたネットワーク作りの必要は理解され、情報をやり取りするためのツールは整備されていても、やはり個人個人の繋がりがなければ動かすことはできないので、研修生には科学院での研修を通じて、研修内容以上の成果を得て頂ければと願っております。

(研修主任:温泉川肇彦)

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