医療安全推進のために様々な政策が実施され、臨床では医療安全管理者の配置が進み、現在、その質が問われる時代になりつつあります。今後、より一層医療安全を推進して医療の質向上を図るには、臨床と教育のギャップを埋める、卒前・卒後の一貫した医療安全教育の実施は早急に対応すべき課題と考えられます。本研修は、その取り組みの第一歩として、看護基礎教育と臨床で医療安全教育を担当している方たちが双方の現状と課題を理解し合い、歩み寄ることで新たな取り組みのヒントを得る機会として関係機関・部署とも協議をして、昨年度は12月に試行を実施し、本年度は7月29日~8月1日の4日間で実施しました。受講対象は、看護学校教員(医療安全教育の担当者で教員経験3年以上の方)30名、医療機関の看護師(医療安全教育担当者で担当3年以上の方)30名の計60名で、それぞれの受講者が様々な立場から考えながら講義や演習に参加することで、必要な学びを得られるよう、講師陣もそれぞれの立場で第一線の実践者を迎え、当院の講師を加えて研修プログラムを企画しました。
演習のひとつとして、「医療安全教育における卒前・卒後の連携」について、看護教員と臨床の看護師を交えたグループで討議を行いました。ここでは、教育と臨床が双方の現状と課題について情報交換をすることで、卒前・卒後が連携する新たな取り組みの案が多数提案されました。研修後、早速、自施設で実施を検討したいとの声も多く聞かれ、今後の卒前・卒後の連携による医療安全教育の取り組みが期待されるところです。
もうひとつの演習は、「論理的思考を育む医療安全トレーニング」として、RCA(根本原因分析法)演習を、今度は看護教員と臨床が別々のグループで実施しました。それぞれの立場による視点の違いも見えて新鮮な気づきの機会となりました。単にインシデント・アクシデント事例の分析方法を学ぶということに留まらず、論理的思考を育む、医療安全への関心を高める(学習の動機付け)、コミュニケーションを図るなど、複数の成果が期待できるため、学校での導入を検討したいとの反応も見られました。
今後は卒前・卒後教育の情報交換の場として、基礎教育の実施状況を臨床に伝え、あるいは、医療安全活動に関する情報を臨床から得て、基礎教育で教育すべき内容を具体的に検討し、双方の利点を共有するヒントが得られるような実践的な研修を企画・実施することを検討しています。 政策科学部 石川雅彦
admin: 2008年8月アーカイブ
「児童虐待防止」研修;2008年6月30日(月)から7月4日(金)
「児童虐待防止」研修には、例年定員枠を超える全国の地域保健部門の保健師、児童相談所や市福祉部門の保健師等に参加していただいています。
児童虐待は、社会的関心の高まりもあってその相談件数も年間約4万件を超える勢いです。その中から多くの被虐待児童が保護される一方で、無念にも救えなかった虐待による死亡が年間100人を数えます。児童虐待の防止に公衆衛生の立場で携わる保健師は、この現実に時として、無力感、焦燥感、疲弊感に押しつぶされそうになります。地域という人が暮らしを営む土壌で児童虐待という悲しいからくりが今もどこかで繰り返されています。
生まれてきた命が、思いきり笑い、泣き、怒り、甘える感情をあたり前にだすことを守られる子育て環境を築くために、今求められるのは、虐待問題を認識した子育ての社会化と地域間格差の解消です。そのためには自治体、専門家、住民に浸透させる努力と各段階での援助の標準化を目指さねばなりません。
研修の5日間では、課題にしっかりと向き合うために必要な知識や技術の習得さらには機能・役割の確認をし、解決の道筋を描きだすためのリーダーシップを発揮できる力を身につけていただいています。プログラムは、児童虐待を公衆衛生として捉えることはもちろん、児童精神医学、精神医学、小児科学、心理学や児童福祉学、社会福祉学、法学、臨床法医学に基づいた知識に現場の実践活動、面接技法演習、厚生労働省の今後の展望などを織り交ぜて、予防、強制介入(分離・親権剥奪)、再統合、社会的養護、地域づくりなどの実践に結びつく形で構成しています。
子どものいのちと親の苦悩という重いテーマに浸る5日間ですが、研修受講生の必死感はあっという間に伝導し、研修受講したものの特権ともいえる全国のネットワークもガッチリ組まれていました。皆さんが獲得したネットワークをフル活用して、静かなる熱い想いを実践に落とし込んでいただきたいと思います。
そして今後も科学院とのつながりもお忘れなく、いっしょに子どもを守り抜ける社会の創成にエネルギーを注ぎ合いましょう。21年度も共に学ぶ仲間のご参加お待ちしています。
「虐待防止」研修 担当主任 中板育美(公衆衛生看護部)