◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第60号 2012/10/22) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★☆ メールマガジン第60号 ☆★ 【掲示板に書き込み募集中】 _________________________________ □ 目次 [科学院だより] ○「国立保健医療科学院 同窓会セミナー」のお知らせ ○平成10年度専攻課程「看護コース」を受講して (公衆衛生情報2011.8号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「卒業前教育と現任教育の架け橋として」 _________________________________ ●「国立保健医療科学院 同窓会セミナー」のお知らせ 同窓会活動の活性化のために、 以下のテーマでセミナーを開催いたします。 奮ってご参加ください。 日時:10月25 日 12:15〜13:15 場所:〒753-0074    山口市中央二丁目5番1号    (山口市民会館事務所2階)    山口市男女共同参画センター 第一会議室    http://www.y-djc.com/?page_id=8#facilities メインテーマ:「これからの健康づくり施策−健康日本21の新たな         スタートを踏まえて」 1.国立保健医療科学院 生涯健康研究部  横山徹爾先生 「健康日本21(第2次)の新たな取り組み」 2.山梨県中北保健福祉事務所  古屋好美先生 「健康づくりにおける保健所の役割と機能から今後の展望を考える」 3.群馬県食品安全課  阿部絹子先生 「生活習慣病予防と食育の環(わ)」 ※参加無料です。 ※セミナー参加者の皆様には昼食をお出しします。 【お問い合わせ先】国立保健医療科学院 総務部総務課 (直通)048-458-6217 (FAX)048-469-1573 _________________________________ ●平成10年度専攻課程「看護コース」を受講して (公衆衛生情報2011.8号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「卒業前教育と現任教育の架け橋として」             富山県立総合衛生学院保健学科  河村瑞穂  −施策化のプロセスを修得できた看護コースでの1年間の学び−  私は平成10年度、国立保健医療科学院に統合される前の国立公衆衛生院 の専攻課程「看護コース(1年間)」で研修を受けました。看護コースの 受講生は23人で、主に都道府県や政令市、私立保健師養成所からの派遣者、 青年海外協力隊経験者などの保健師で構成されていました。  看護コースの1年間の研修カリキュラムは、(1)公衆衛生に関連する講義 と、(2)研究活動のフィールドワークで構成されていました。  公衆衛生看護、疫学・統計学、社会調査法、行政論、国際保健などの 講義を受けたことにより、行政で働く保健師の活動の基盤について再確認を することができました。ほとんどの科目において、何らかの演習や討議が 組み込まれており、受動的な講義はほとんどありませんでした。そのため、 日常の業務を通じて感じていた課題や疑問について、参考文献をもとに調べ、 ともに学ぶ仲間、そして教員らと討議し、考えを深めていくプロセスが とても貴重なものに感じられました。  また、講義を通じて、国の審議会や検討会等で検討されたことがどのよう に施策につながっているのかを具体的に知る機会も得られたため、その後、 県庁で勤務する際の仕事の進め方の参考にすることができました。  一方、研究活動に関する科目としては、特別演習と合同臨地訓練の2科目 が設定されていました。特別演習は派遣元の自治体などをフィールドとし、 また合同臨地訓練は医師、管理栄養士、保健師等といった職種の異なる者の グループで国立公衆衛生院近郊の自治体をフィールドとして研究を行いまし た。いずれも同院公衆衛生看護学部(当時)はもちろん、全学部の教官の 支援が得られる体制が整えられていました。  これらの研究を体験し、研究的な視点で地域や何らかの集団に存在する 健康課題や、そこに起こっている事象を客観的に見つめるプロセスを、 約8か月にわたり丁寧に学ぶことができました。  このうち合同臨地訓練は、メンバー相互あるいは指導教官との間で研究 目的、方法の議論、役割分担、進行管理といった、いつの時代でもどの職場 でも仕事を進めるために必要とされる企画、合意形成、調整、実施、評価の 体験ができるように仕組まれたものでした。  この看護コースでの学びは、職務を通して継続的な学習の必要性と面白さ を改めて感じられるものでした。そして、面白味と適度な負荷が表裏一体で あることも実感しました。  −「看護コース」のスタイルを取り入れた保健師の基礎教育−  研修後、私は保健師養成所において基礎教育に6年間、そして県庁で現任 教育に4年間と、保健師の人材育成に携わってきました。看護コースでの 研修における学びを保健師の人材育成に関連させて報告します。  私が在籍する富山県立総合衛生学院は1年間の養成課程で、富山県内を はじめ全国から25人が在籍しています。学生たちは、保健師として乳幼児 から高齢者までを対象として予防的な活動を地域で行いたい、養護教諭と して将来を担う子どもたちに教育の場で貢献したい、といった希望を持って 入学してきます。  国立公衆衛生院では、「保健師は地域で起きている事象を客観的に捉え、 解決する方法を地域で住民とともに考える看護職である」と学びました。 当学院の教育の特徴も、実践的な臨地実習にあります。地域アセスメント から得た情報や過去の看護実習の体験から興味を持っている分野について、 学生1人ひとりが1市町村を担当し、個別支援事例への継続した家庭訪問の 体験を核として、実習課題を設定して臨んでいます。  たとえば、「A市における低出生体重児を支える保健サービスと保健師の 役割について」というテーマを実習課題として設定した場合、「個別支援」 の経験として、低出生体重児がいる家庭を継続訪問します。そのなかで、 対象者の家族構成や生活環境、セルフケア能力、利用しているフォーマル サポート、インフォーマルサポートなどをアセスメントし、支援計画の立案、 支援を行います。さらに、現場の保健師の協力のもと、当該自治体の出生率 などの保健統計の動向、分娩できる医療機関の数、NICU(新生児特定集中 治療室)が当該圏域にあるか、保育所などはどこにあるかといった情報など を「地域アセスメント」し、保健事業の企画・予算の検討を課しています。 併せて、保健事業に関連する母子保健法、児童福祉法、予防接種法などの 関連法規や、健やか親子21などの施策から保健事業と関連する法的根拠を 学び、レポートとしてまとめていきます。  この能動的な実習などにより、厚生労働省「卒業時の到達目標」に準拠 した当学科の各項目において80%以上の到達レベルに至った学生を卒業 させています。  もう1つの特色は、調査研究を学生6〜7人のグループで10か月かけて 国立公衆衛生院の合同臨地訓練のスタイルで行っている点です。すなわち、 地域で起こっている事象を客観的に捉えることや人の行動や生活、環境が 健康とどのように関連しているのかを考え、学ぶことを中心とした科目を 持っている点です。  専任教員としては、学生たちが明らかにしたいこと、仮説と対応した図表 の作成、ふさわしい調査対象・フィールドの検討、調査の実施、その集計・ 分析、結果・考察の文章化といった過程を主体的に学べるよう、一連の カリキュラムを構成しています。  基礎教育においては、現場の保健師が地域アセスメントを行い、健康課題 を把握し、住民とともに、いきいきと地区活動を展開している姿を肌で 感じる体験こそが、学生の学習の深さを決め、意欲を高めると考えています。 また、地域保健・公衆衛生の現場を経験した専任教員としては、市町村や 保健所の保健師と人間関係を構築し、その協力を得て、学生の学習を支援 することが重要な役割である、と感じています。  −県全体に保健師の現任教育の推進体制を構築−  一方、平成15〜18年度まで私は、県庁医務課の担当者として、保健師 における現任研修に関わりました。  保健師の現任教育を推進する業務は、国立公衆衛生院で自らの体験を 通して擦り込まれた「現場の課題は現場でしか解決できない」「目的・目標 を明確にして意図的な行動を起こすことが重要である」「たとえリーダーの 経験がなくてもリーダーに必要なことを上申する」といったことに加え、 「保健師がこれまで大切にしてきたこと、次の世代に引き継ぐこと、新しく 変革すること」が試される機会となりました。  こうしたなかで私は、現任研修の担当者として、新任保健師教育マニュア ルの作成、新任保健師研修会の実施、中堅者を対象とした研究研修、次期 リーダーのための保健師指導者育成事業を上司や現場の関係者とともに構築 してきました。  とくに、平成17年度から厚生科学研究のモデル事業として開始した 保健師指導者育成事業では、県担当者としてどのようにしたら、管理的な 立場や中堅期の保健師が人材育成に関する能力についての知識・技術を 修得し、所属する市町村、保健所の現場に適応できるものになるのか、 そのためのプログラムを検討する段階から関与しました。  まず17年度には、現場の意見を反映した研修プログラムを作成するため、 市町村や県型保健所の保健師で構成する検討会を設置し、17〜18年度に かけて作成したプログラムを試行しました。  この研修プログラムは、経過評価と短期的な結果評価がおおむね効果的で あったため、19年度から本格運用することとし、研修会を実施しました。  そして19年度からは、支援検討会の構成員を「研修サポーター」という 名称で県下の人材育成の推進者として位置づけ、OJT(On-the-Job Training) として各所属で実施する人材育成計画の立案や人材育成の実践への助言を 行うことをその役割として加えました。  さらに、検討会メンバー自身の人材育成能力を高めるために、外部講師が 担っていた講義を3年目からはその一部、そして5年目からはそのすべての 講義を担うように、その役割を拡大させることとしました。  研修や検討会の効果としては、単に受講者における人材育成能力の向上 だけにとどまらず、保健所が中心となって圏域で人材育成を支援する体制、 検討会構成員の教育力向上の体制の整備という形に至っており、その点で 一定の評価ができるのではないかと思っています。  また、研修会や検討会を開催することと並行して、統括保健師が参集する 県主催会議などにおいて、指導者研修の成果を周知するという機会を意図的 に設けていきました。  このような、保健師指導者研修会とその検討会、会議の開催とOJT支援に より、県内全体に保健師の人材育成の推進体制が構築できたのではないかと 考えています。今後も、卒業前教育と現任教育の架け橋となる一人として 貢献していきたいと考えています。  −研修の意義は仕事を通しさらに付加価値と応用力をつけること−  今回、国立公衆衛生院での研修が現在の仕事にどのように反映されて いるかを紹介しました。  当該研修で培ったことを基盤としつつも、研修後に勤務した各職場で上司 や同僚、関係機関の人たちからの助言や支援を受けられたからこそ、今の 仕事ができていることも事実です。  研修後すでに10年以上を経過しているので、そのことを本稿の最後に 付け加えさせていただきたいと思います。  研修の意義は、短期的な知識・技術の向上もさることながら、そこで得た 知識・技術に仕事を通じて付加価値と応用力を付加していくことにこそある のではないかと、私は考えています。 _________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会