◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第58号 2012/9/14) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★☆ メールマガジン第58号 ☆★ 【掲示板に書き込み募集中】 _________________________________ □ 目次 [科学院だより] ○シンポジウム「新しい生活習慣病予防対策」開催のお知らせ ○科学院往来 ・下ヶ橋 雅樹(2012年1月採用 生活環境研究部水管理研究分野主任研究官) ○平成19年度特別課程「公衆衛生看護管理者コース」を受講して (公衆衛生情報2011.6号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「研修内容を、新人育成のほか全保健師への技術指導に活用」 ________________________________ ●シンポジウム「新しい生活習慣病予防対策」開催のお知らせ 開催主旨:  2011年9月の国連総会において、健康テーマとしての非感染性疾患(NCD) に関するサミットが開催され、政治宣言が採択されています。世界が協調して 取り組まなければならない病気といえば感染症だというのが常識だった時代から、 心血管系疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病といった、いわゆる生活習慣病 にも目を向けて国際連携した対策に踏み出そうとする保健医療の大きな潮流変化 がおこっていることを認識しなければなりません。腎臓病も生活習慣の改善が 大切であることも宣言されています。  この度、米国疾病管理予防センター(CDC)から米国Healthy People 2020計画 のCDC側立案担当者であるDesmond Williams博士を招聘し、下記の通り シンポジウムを開催します。 開催日時:2012年10月18日(木) 14時〜16時30分 開催場所:国立保健医療科学院 交流対応大会議室      〒351-0197 埼玉県和光市南2-3-6      電話:048-458-6111      地図 http://www.niph.go.jp/access/ プログラム: 司会・松谷 有希雄(国立保健医療科学院院長)          ・橋 進(認定NPO法人腎臓病早期発見推進機構理事長)  14時〜14時10分   開会の挨拶  14時10分〜15時10分 1)米国のHealthy People 2020に向けて            「腎臓病に対するハイライト」を含めて             Desmond E. Williams, MD, PhD             (米国疾病管理予防センター)  15時10分〜15時30分 2)腎臓病早期発見プログラム(KEEP JAPAN)             岡田 一義(日本大学医学部准教授)  15時30分〜15時45分 3)高齢化社会と生活習慣             鈴木 洋通(埼玉医科大学教授)  15時45分〜16時30分 討論(質疑応答) 参加申込み:参加を希望される方は下記URLより参加申込書をダウンロードし、       FAXまたはメールにて腎臓病早期発見推進機構にお申し込みください。       申込締切日:2012年10月10日(水)       URL<http://niph-doso.gr.jp/image/program.pdf> _________________________________ ●科学院往来 ・下ヶ橋 雅樹(2012年1月採用 生活環境研究部水管理研究分野主任研究官)   自然・社会環境変化に対応した水管理システムに関する研究 平成24年1月に生活環境研究部水管理研究分野に主任研究官として着任 いたしました下ヶ橋雅樹です。どうぞよろしくお願いいたします。 科学院着任前、私は大学にて水環境保全のためのプロセス技術やシステム 解析に関する研究、ならびにアジア・アフリカ地域での環境分野のリーダー 育成に関わる教育活動などに携わってきました。今後はこれらの経験を活かし ながら、将来の水管理システムのあるべき姿を追求してゆきたいと思います。 現在は、安全な水道水の安定供給のため、今後日本の直面する自然・社会環境 の変化に対応しうる水道システムの研究を進めています。 自然環境の変化への対応では、気候変動に伴い今後想定される異常気象や それに伴う自然災害を念頭におき、GIS(Geographic Information System)を 活用した、水道施設の自然災害に対する脆弱性を示すハザードマップの整備を 進めています。また、異常気象に伴う水道水源の濁度上昇に着目し、降雨と 濁度、浄水過程での凝集剤添加量の関係解明を進めています。この検討に おいてもGISを活用し、水道原水取水点に至る集水域の状況(人口、産業分布、 土地利用等)と降雨−水質応答の関係解明も今後進める予定であり、今後の 社会構造の変化が水道水源水質に与える影響についても検討を進めたいと 考えています。 社会環境の変化への対応では、高齢化社会での水道の維持管理を課題として 取り上げ、高齢化過疎地域での災害時の要援護者支援に関する研究を開始 しました。災害時の上下水道被害や復旧などに関する事例解析を進め、高齢化 過疎地域での公衆衛生面からの災害時要援護者支援における課題を考察し、 今後なすべき対応策を検討する予定です。 *GISを用いた水道施設ハザードマップの例  画像URL  _________________________________ ●平成19年度特別課程「公衆衛生看護管理者コース」を受講して (公衆衛生情報2011.6号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「研修内容を、新人育成のほか全保健師への技術指導に活用」           松戸市介護支援課  久保田米子  −講義と演習を中心とした研修−  私は、平成19年5月28日から6月15日の3週間、国立保健医療科学院で 保健福祉センターの所長として、特別課程公衆衛生看護管理者コースを受講しま した。この研修は、看護管理者の質向上を目的に公衆衛生看護行政の動向、看護 管理、現任教育、企画評価の4本柱で組み立てられ、講義と演習で構成されて いました。  講義は、(1)公衆衛生看護に関すること(公衆衛生看護のあり方、公衆衛生看護 管理者の役割、公衆衛生看護管理、地域保健行政の改革と保健師に期待される 役割、公衆衛生看護を考える「健康危機管理」、健やか親子21と母子保健の 推進、児童虐待における公衆衛生看護の役割、健康格差社会と保健師への期待)、 (2)保健活動に関すること(保健活動の評価、保健活動評価の実際、保健活動の 企画立案)、(3)公衆衛生全般に関すること(新しい公衆衛生の潮流、医療制度 改革と地域保健活動、地域行政と保健福祉計画、医療監視と公衆衛生)、 (4)現任教育に関すること(現任教育のあり方、現任教育の実際)、 (5)リーダーシップ論、(6)文献検索の方法等でした。  一方、演習では評価演習、プレゼンテーション、公衆衛生看護管理に活かす コーチング、ディベートに取り組みました。 [1]評価演習は時間をかけて丁寧に  最も多くの時間が注がれたのは評価演習で、受講生には事前に現場で実施 している事業に関する評価表を作成するという課題が出されていました。  類似性のある事業別にグループを編成し、4〜5人のメンバーで事前に作成 した保健活動の事業評価表を再検討し、修正することが演習での課題でした。  演習を効果的に行うために講師や前年度の受講生から、評価の考え方や手法 についての講義が行われ、そこでは、保健行政等に評価が必要になってきた 背景として、説明責任、住民の価値の多様性、地方分権、財政悪化等の問題が あるといったことが指摘されました。また、評価には「企画評価」「実施評価」 「結果評価」があるといったことも教示されました。  そのなかで、とくに印象に残っているのは、企画評価とは地域ニーズと目的 設定・プログラム企画・評価計画についての評価を行うということで、これは 私にとって新しい評価の視点となり、大きな学びとなりました。 [2]プレゼンテーションの演習  プレゼンテーションに必要な能力には、(1)常日頃からのプレゼンス、 (2)事前準備としてのシナリオ・スキル、(3)プレゼン時のデリバリー・スキル の3つがあるとの講義の後、それらの能力を身につける演習が行われました。  そのなかで、わかりやすい話し方の基本中の基本として「言葉のヒゲ退治」 の演習が行われました。言葉のヒゲとは、発言中に出てくる「え〜」「あの〜」 「まぁ」といった論旨とは関係ない言葉の癖で、これを退治すると文章が短く なる、理解しやすくなる、「間」ができて聞きやすくなるという効果があります。 私たちは30秒間にこれらを一度も言わずに話す練習をはじめ、徐々にその スキルを上げていきました。  併せて、効果的な説明用資料の作成についても学びました。各自実施したい 企画をプレゼンテーション用にA4用紙1枚にまとめるという演習では、話す 技術と見せる技術を融合させ、効果的なプレゼンテーション技術を身につける ことに取り組みました。 [3]深夜に及んだディベート準備  ディベート演習では、6グループに分かれ、3つのテーマ((1)県型保健所を 廃止してすべて市町村に移管すべきか、(2)保健師の業務分担制と地区分担制は どちらが優れているか、(3)対人保健サービスは民間に任せたほうが質も量も 向上するか)について議論しました。グループメンバーは本番に向け、図書館 で資料やデータを探し、そのシナリオ作成も深夜にも及びました。  当時の研修資料によると、「ディベートは定められたルールに従い、対抗 する2組の間で行われる討議であり、検証を重ね、討議を闘わせることにより、 ある1つの論題に対する理論的・理性的判断を下す思考過程である」とされて おり、ディベート研修には複眼視的思考、発想力、客観的分析力、論理的思考 、プレゼンテーション能力、傾聴力、冷静さを保つ力などを獲得する効果がある とされています。  私にとっては、「複眼的思考」と「傾聴力」の獲得に最も効果がありました。 [4]保健指導に役立つコーチング  コミュニケーションをする上で、相手のタイプに合わせて話すことが重要 です。そのタイプにはコントローラー、プロモーター、サポーター、 アナライザーの4つがあり、それぞれに適した関わり方があるといったことを 講義では学びました。  また演習では、自分自身を振り返った後、2種類の聞き方を実践し、話を 聞くときの相手との心地よい位置関係や視線の向け方などを学びました。  残念ながら、限られた時間でこれらの技術を身につけるには至りません でしたが、コーチングの考え方や今後のヒントを得ることはできました。 そして、この技術は後進育成ばかりではなく、保健指導の技術の向上にも 寄与すると感じました。  −研修の効果と現場での実践− [1]価値観の変容  研修の受講により、まず仕事へのモチベーションが高まりました。どんな 研修でも受講後は気持ちが高まるものですが、多様な講義とさまざまな演習を 受けるなかで、知識とともに、公衆衛生看護管理者としての責任を自覚する など、内面の変化がありました。  日常の仕事から離れ、自身の姿勢を見つめ直す良い機会にもなりました。 [2]先人の知恵である書籍の活用  研修会への参加にあたり、数冊の図書が必携書および参考図書として紹介 されました。私は、職場にある図書以外にも参考図書も含めて購入し、研修 会場に持参しました。それまでにも最新の知見を書籍から得ることはありま したが、現場の実情から乖離しているという印象も持っていました。  しかし、紹介された図書は、現場の活動に活かせるものばかり。恥ずかしい 話ですが、「書籍は先人の知恵であり、もっと書籍からも学ばなくては」と しみじみ実感しました。現在はさまざまな書籍に親しみ、現場での指導にも 活かしています。 [3]人間関係の広がり  集合研修の1つの効果として、人間関係の拡大を挙げることができます。  研修受講生は北海道から宮崎県まで都道府県および市町村の保健師、総勢 44人に及び、現場の公衆衛生看護管理者が一堂に会し、情報を共有できた ことは、他地域の状況を知り、所属機関の現状を見つめ直す機会となった だけでなく、今後、困難に出会ったときの良き相談相手を得ることにも つながりました。  実際、当市の事業を実施する際に活用する児童虐待の早期発見マニュアルを 作成するにあたって、保健分野での児童虐待の予防と早期発見のための マニュアルに関する情報の提供を、当時の研修受講生だったメンバーに依頼 したことがありました。その結果、適切な情報収集がはかれました。 [4]研修での学びを現場の活動に  研修での学びは、職場での人材育成にも活かしています。  私が研修を受けた年の翌年、8年振りに新人を採用しました。その準備の ため、コーチングの知識や現任教育に関する研修内容を活かし、新人育成 マニュアルを完成させました。それから3年が経過しましたが、現在も新人 育成に活用しています。  また、プレゼンテーション演習で身につけた具体的な知識と技術は、新人が 健康教育を行う際のOJTにも活用しています。プレゼンテーション技術は、 どの年代の保健師にとっても参考になるものなので、新人育成のほか、保健師 全員への技術指導にも活用しています。  −さらなる成長のきっかけに−  最も時間をかけた評価演習を現場に導入することはできていませんが、 職員の事業企画や実施に対して管理者として助言する際に役立っています。 保健師の活動を価値あるものにするためには評価が必要不可欠ですが、保健 事業の評価はなかなかむずかしいというのが実感です。しかし、国立保健医療 科学院で学んだ評価手法と同様の手法を学んだ保健師が当市にはいるので、 今後、この評価方法を活用して事業の棚卸などを行っていきたいと思います。  現場を離れ学びの場に身を置いたことは、長年の保健師活動を振り返り、 新たなスタートを切るきっかけとなりました。「学ぶことを学んだ研修」と 言って良いかもしれません。その経験が私の背中を押し、翌年4月の現場に 身を置きながらの大学院進学にもつながりました。  これも多くの示唆を下さった講師の方々のおかげです。この場をお借りして、 改めてお礼を申し上げます。 _________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会