◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第57号 2012/8/3 ) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★☆ メールマガジン第57号 ☆★ 【掲示板に書き込み募集中】 _________________________________ □ 目次 [科学院だより] ○研修案内「医療放射線監視研修」 ○科学院往来 ・大澤 絵里(2012年4月採用 国際協力研究部主任研究官) ○平成20年度特別課程「看護管理者研修」を受講して (公衆衛生情報2011.5号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「研修での学びを「つなぐ」をキーワードに仕組みとして職場へ定着」 ________________________________ ●研修案内「医療放射線監視研修」 ■ 目 的 医療機関への立入検査業務を行うために必要な放射線管理に関する専門的 かつ実務的な知識と技術を習得することを目的とします。 ■ 対象者 (1) 診療放射線技師の免許を有する方、または放射線の取り扱いに関する 専門的な知識及び経験を有する方であって、国及び地方公共団体等において 医療放射線の監視・監督等の業務に従事するか、あるいは医療機関で放射線 管理の業務に従事する方。 (2) 前記に掲げる方と同等以上の学識及び経験を有すると院長が認めた方。 (3) 定員に余裕がある場合には医療機関で放射線管理業務に従事している方 の受講を認めることがあります。 ■ 定 員 10名 ■ 研修期間 平成24年10月15日(月)〜24年10月26日(金)までは、 遠隔教育(e-learning、仮想教室)で実施します。 この遠隔教育はPCを用いればどこにいても受講可能です。 質問等は、電子メールやインターネットを使用した仮想教室で行います。 その後、24年10月29日(月)〜24年11月2日(金)(5日間) までは、国立保健医療科学院の教室で一斉授業を行いますので、全員、 国立保健医療科学院(埼玉県和光市)に集合することが必要です。 ■ 受付期間 平成24年7月9日(月) 〜平成24年8月8日(水) ※8月8日(水)以降も延長してお申し込みを受け付ける予定ですので、 希望される方は下記の問い合わせ先にご連絡ください。 ■ その他 ・ 受 講 料は無料です。 ・1泊2,100円の当院寄宿舎が利用可能です(先着順)。 ・5日間の集合研修で行うのは本年度が最後です。 ・事例集を提示しています。 http://trustrad.sixcore.jp/qa/ ■ 問い合わせ先 教務課教務第三係 048-458-6116 研修主任:山口 一郎(生活環境研究部) _________________________________ ●科学院往来 ・大澤 絵里(2012年4月採用 国際協力研究部主任研究官)  本年4月より国際協力研究部に配属になりました大澤絵里です。本院との おつきあいは、2006年度に専門課程国際保健コースに入学して以来、6年目 となります。2010年度には研究課程を修了いたしました。  総合病院の臨床で働きながら国際協力のフィールド活動を実践しましたが、 病院完結型の医療では人々の真の健康な生活は目指せない!ということに 気づき、公衆衛生分野に足を踏み入れました。今までの経験を生かし、 住民自身の手で自分たちの健康な生活を守るための真の地域保健活動の 在り方を追求しています。途上国と日本では健康をとりまく状況が大きく 異なると思われがちです。しかし、行政の量も質も不足し、なかなか地方 まで保健医療が行き届かない途上国と、ライフスタイルが多様化し、今や 画一的な保健医療活動では、個々人に効果的な対応をすることができない 日本とでは、地域住民が自分たちの地域で、自分たちの責任として保健医療 について考え、答えを出していかなくてはならないという共通の原則が存在 すると考えます。  現在は主に、地域で妊産婦がうけるサポートを、周辺の資源(行政、 企業など)・ネットワークを最大限に利用して、どのように形成していける かに関心を向けて研究を行っています。 *地域の健康のために活動するCommunity Health Workerたちのミーティング  画像URL  *地域の助産院でのママための防災講座  画像URL  _________________________________ ●平成20年度特別課程「看護管理者研修」を受講して (公衆衛生情報2011.5号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「研修での学びを「つなぐ」をキーワードに仕組みとして職場へ定着」             愛知県半田保健所 椎葉直子  −ディスカッション中心の研修で管理者の役割を再確認−  私は、平成20年度に国立保健医療科学院が実施する「短期研修公衆 衛生看護管理者研修」を受講し、約2週間にわたり、全国からの44人の 保健師とともに、講義やグループワーク・演習を通して保健師の専門性や 管理者の役割について学びました。  そのなかの「保健活動の評価」の研修では、各自が実際に取り組んで いる事業の背景・目的・目標・内容と方法・評価指標・組織関連図などに ついて指定の様式にまとめ、それを用いながらグループに分かれ、地域の 課題は明確になっているか、目的・目標は適切か、実施内容は目的を達成 する内容となっているか、評価指標は事前に設定し評価できるものである か、といった視点で意見交換した上で発表し合いました。  最初に作成したものは、事業中心の内容であったため、毎日仲間と遅く までパソコンに向かい修正しました。理論は理解しているつもりでも、 文章にするとなると、地域の課題が明確になっていないためか、目的や 目標がずれてしまい、悪戦苦闘の研修でした。  日常業務のなかでは時間をかけて考えたり、話し合うことがなかなか できなかったのですが、たくさんの仲間たちと議論し、「地域の住民が どうなれば良いのか?」という視点で日頃の活動を振り返ることができ ました。これこそが人材育成の点でも重要なポイントとなる、と認識 しました。  たとえば、業務分担制と地区分担制についての意見交換では、業務分担 や分散配置により、保健師本来の「地域を見る活動」ができにくくなって いることから、地区分担制の活動に戻したいけれども、組織体系を変える ことが困難で悩んでいる、などの意見が多く聞かれました。また日頃、 看護管理者として後輩に伝えたいことがなかなか伝えられない空しさや 無力感を抱き、保健師として仕事を続けることに悩みを感じていると 話した仲間もいました。  しかし、この研修を通して、保健師の原点について仲間との意見交換が できたことにより、管理者は必要なことを後輩に伝えていかなければなら ない役割を担っている、ということを改めて確認し合うことができました。  そして私自身も、保健師の専門性は、地域に出かけ、地域の課題を広い 視点でキャッチし、その課題を仲間と共有して対策につなげていくことで あると再認識できました。また、業務分担制による縦割りの保健活動のみ では、地域全体を捉えることがとても困難なので、地区分担制による保健 活動の推進を図る必要がある、と改めて感じました。  −研修での学びを活かして職場で実践した5つの取り組み−  研修後、職場に戻った私は、「つなぐ」(伝承、継続、引き継ぐ)を キーワードに次の5点について取り組みました。  ここでは、これまでの2年間の実践を簡単に紹介します。 1)訪問記録の指導を通しての後輩育成と記録の改善  愛知県豊川保健所(筆者の前任地)では、平成18年度の管内保健師 研究会で訪問記録についての研修会を実施しました。そしてその後、記録 用紙を改善して記載方法の統一を図りました。  改善前の記録用紙は、記録の簡略化を重視(記載項目をマニュアル化) した様式であったため、たとえば低出生体重児の訪問では、どの事例とも 同じような記録内容となってしまい、事例の状況や問題点が見えてきませ んでした。  そこで、Plan-Do-Seeの観点で記録する「様式1」に改善すると、客観的 な事実と、担当者の判断・支援内容・方針とが明確になり、その訪問記録を 見る側も支援方針へのアドバイスがしやすくなりました。  なお、保健師の訪問記録は、管理的な立場にある保健師だけでなく、 中堅保健師も読むことにしており、事例の共有とともに後輩育成にも つなげています。Plan-Do-Seeの観点で記録をすることで、目的に応じた 必要な観察や状況把握ができているか、保健師としてそのように判断した 根拠は何か、などを考えることが必要となり、質の高い記録は訪問の質を 高めないと書けない、ということがわかってきたからです。  一方、方針が明確に記録されることにより、担当者が替わった際にも スムーズな引継ぎが可能になります。 2)地区別訪問活動計画の作成  私が愛知県に就職した当時は、次年度の事業計画として、各保健師が 担当地区の訪問活動計画を作成していましたが、いつの間にか保健所全体で 訪問計画を作成するようになっていました。  保健師が担当地区の特性に応じた地区活動を展開するには、まずその地区 に私たちが関わる必要のある対象者がどれだけ存在するかを把握することが 必要となります。そして、訪問計画の作成では、支援対象者のなかから 「訪問必要者」を選定して、実数と延数を計上することが必要です。  ところが、保健師によって訪問を必要とする判断の基準に差があり、 「訪問可能数=訪問必要数」と計上してしまう傾向もありました。  そこで、「訪問必要者」の基準について所内で統一し、その基準に合わ せて訪問活動計画を作成することとしました。  その結果として、中学校区ごとの障害児や結核患者・難病等の特性がより 具体的に見えるようになりました。 3)保健所の地区分担制による保健活動の推進  現在、愛知県内では、地区分担制と業務分担制の併用をしている自治体が 多い状況です。ただし、地区分担制を採用していても、個々の事例に対する 支援のみで良しとし、地区の課題に対応した活動が弱いのが現状です。  また、市町主催の実務者会議や住民からの相談等には、保健所の地区担当 保健師が対応する仕組みをとっているのですが、市町の保健師からの統計 データなどの問い合わせは保健所総務課に持ち込まれ、地区担当保健師に よる市町支援に上手くつながっていない場合もしばしばありました。さらに、 市町支援をするためには、必要時に市町の事業や業務検討会へ参加するなど、 積極的な課題の共有が不可欠です。  そこで、地区に出たときには可能な限り、管内の市町村保健センター等へ 立ち寄り、顔を合わせ、市町からの問い合わせについては、地区担当保健師 が窓口となって回答するような体制としました。 4)市町別課題や方針の明確化と次年度につなぐ体制づくり  各事業ごとに事業の主担当と副担当が、管内全域および管内市町別に地区 担当保健師の意見を聞き、「様式2」の「保健事業検討シート」で検討内容と 方針および次年度の事業(案)の内容を作成し、保健師全員でそのシートを もとに検討を行い、次年度の事業の方針を決定する体制としました。  まず、事業の担当者で話し合うことにより、事業の運営に責任を持つように なり、また全体で話し合うことで事業方針を共有し、全員で取り組む姿勢が できたように思います。  さらに、管内の課題解決のためには、会議・研修・事例検討等のどの方法が 効果的であるかを検討し、サービス調整会議やパイオニア研修の計画につな げることが必要なので、そのような形を徹底しました。  事業ありきの活動にならないよう、そして地域の課題や市町の特性に応じた 事業展開ができるよう、地区担当保健師は各事業ごとに担当地区の課題を 把握するようにしています。そのためには、日頃から市町の保健師との コミュニケーションを密に図っておくことが重要です。  豊川保健所では、以前から事業のまとめを作成していましたが、その内容は 各担当者に任されており、会議や研修の資料がそのまま綴じられているなど、 不統一な状態でした。それでも、転勤してきた者にとっては参考となり、 保健師学生の臨地実習においても活用されていました。  そこで、それらをより有効に活用するために、保健事業検討シートでの 検討内容を参考にして、訪問記録と同様、Plan-Do-Seeの視点で事業の背景・ 目的・実施内容・課題・方針の流れでわかりやすくまとめることにしました。  その結果、次年度につながるまとめを作成することができるようになり ました。  このまとめの資料は、後任者への引継ぎや新任期への指導、保健師の臨地 実習において、より活用しやすいものとなっています。 5)個別事例への継続支援  県の保健師には転勤があり、市町においても分散配置が進み、異動の機会が 増えてきました。  転勤に伴い、前任者から事業の説明や事例の引継ぎが行われますが、短時間 での説明では、そのときは理解したつもりでも時間とともに記憶があいまいに なることが多々あります。  支援が必要な事例についても、訪問記録等を見ながら説明を受けますが、 訪問記録を保管庫に戻すと訪問時期を逸してしまうことがあります。引継ぎが うまくできていないと、継続支援が途切れる原因ともなります。  さらに、引継ぎの方法は保健所ごとにさまざまで、事例の引継ぎ書を作成 していないところもありました。  そこで、引継ぎ事例の状況について、「様式3」のような記載要領で統一 することとしました。  現在では、母子・難病・結核などすべての引継ぎ事例について、市町・ 中学校区・地区担当者名等の基本情報と訪問記録に記入してある事例の状況や アセスメントおよび方針(次回訪問時期等)などをこれに記入し、説明する ようにしています。  −研修などで得た視点を職場へ導入するためには−  新たなことに取り組むには、とくに上司の理解と中堅以上の保健師間の 意思統一が必要となります。  しかし、なかなか足並みが揃わないこともあります。前述の1から5を 職場で実践するにあたり、まず上司に提案し、進め方や様式について了解を 得ました。  そして、中堅以上の保健師へは、保健師連絡会等で管理者研修での学びの 復命・提案などを行うとともに、業務連絡会の機会を増やして、各事業に ついて課題と方針を保健師全員で意見交換を行うようにしました。  また、市町支援を意識した地区担当制の推進と人材育成の強化のためには、 仲間の理解と協力が必要です。さらに、仲間にとって参考になったかどうか を評価する視点も必要であると感じています。  幸い、愛知県には、自主勉強会の場として「あいちの記録を考える自主 勉強会」や「保健師の地区活動を考える勉強会」があります。これらに参加 することが日頃の活動を振り返る機会となり、自分の役割を確認する場と なっています。  今後も保健師の専門性を磨くための自己研鑽を積み重ねていきたいと 思っています。 _________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会