◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第56号 2012/7/25 ) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★☆ メールマガジン第56号 ☆★ 【掲示板に書き込み募集中】 _________________________________ □ 目次 [科学院だより] ○研修案内「地域医療の情報化コーディネータ育成研修」 ○科学院往来 ・吉田 穂波(2012年4月採用 生涯健康研究部主任研究官) ○平成20年度特別課程「看護管理者研修」を受講して (公衆衛生情報2011.4号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「国立保健医療科学院の研修受講者が自治体に戻ってリーダーを養成」 ________________________________ ●研修案内「地域医療の情報化コーディネータ育成研修」 近年、行政機関や医療機関において、医療・保健に関連した様々な情報の適切 かつ迅速な処理と活用が求められています。その鍵となるのが医療の情報化で あり、国の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」に おいても、地方公共団体の医療担当部局に医療・保健と情報技術の双方に通じ た人材の育成を求めています。 しかしながら、保健医療分野において情報化に精通する行政官は少なく、各種 の情報ツールなども業務の中で十分に活用されていないなど、各地域の医療・ 保健の情報化はまだ十分な状況には至っておりません。 このような状況を踏まえ、平成22年度、国立保健医療科学院に「地域医療の情 報化コーディネータ育成研修」が開設されました。本研修では、地方自治体に おいて地域医療や保健医療福祉行政の情報化に何らかの接点のある方々に体系 的な知識と技能向上の機会を提供すると共に、そうした課題に取り組む行政官 同士の連携の場を構築することを目標としています。   http://ictp.niph.go.jp 今まで、都道府県庁、自治体病院、保健所・地方衛生研究所等さまざまな組織 から、行政官だけでなく、医師、保健師、薬剤師、診療放射線技師、医療情報 技師等、さまざまな職種の研修生を受け入れて参りました。研修詳細につきま しては、上記ホームページにて情報提供をしておりますので、もし、ご興味を お持ち頂ければ、ご受講をご検討頂くか、適任の方々へのご紹介をお願いさせ て頂けますと幸いです。 どうかよろしくお願い申し上げます。                   記 名称    地域医療の情報化コーディネータ育成研修 研修期間  平成24年10月17日 (水) 〜 10月19日(金) 受付期間  平成24年7月17日 (火) 〜 8月17日 (金) 応募書類  受講願書、派遣機関の公文書(所属機関長からの受講依頼書) 定  員  20名 受 講 料  無 料(宿泊は1泊2,100円の当院寄宿舎が利用可能) 場  所  国立保健医療科学院(埼玉県) 対象者   (1) 都道府県、市町村などの地方公共団体における医療担当部局、         保健所・地方衛生研究所、自治体病院等において、医療の情         報化を推進する立場の方       (2) 前項に掲げる方と同等以上の学識および経験を有すると院長         が認める方 問合せ先  国立保健医療科学院(〒351-0197 埼玉県和光市南2−3−6)       研修・業務課企画係 TEL 048-458-6187 研修主任:奥村貴史(研究情報支援研究センター) ________________________________ ●科学院往来 ・吉田 穂波(2012年4月採用 生涯健康研究部主任研究官) 「東日本大震災の被災地支援から見えてきた、災害時に求められる  母子支援システム」  私は四人の子供の母親です。産婦人科医として働く方かたわら、2010年に ハーバード公衆衛生大学院で公衆衛生修士号を取得後は、同大学院のリサーチ・ フェローおよび日本医療機能評価機構の客員研究員として臨床と研究をして いました。2011年3月11日の東日本大震災直後、災害に見舞われたお母さんたち や赤ちゃんたちのことを思うとじっとしていられず、助産師・家庭医・産婦人科 医と力を合わせ、石巻地区・東松島市にてプライマリケア・産婦人科・小児科 医師と50名の助産師派遣コーディネートを行い、母子保健システムのサポートを 行いました。具体的な支援内容は(1)子育て支援センターや地域の開業助産師の 支援、(2)避難所の妊産婦訪問および医学的なアセスメント、(3)適切な医療機関 へのアクセス確保、(4)中核病院産婦人科と連携して継続的な健診、(5)これらの 情報を行政及び医療機関と共有、(6)産後訪問:産後鬱・児童虐待予防のための 訪問システム作り、(7)新生児訪問を行う市町村保健師の補助、(8)ママ友会など 母親同士の交流場作り、(9)被災産婦人科医のサポートおよび産婦人科当直医師 派遣、(10)避難所・仮設住宅の乳児診察、新生児訪問でした。  いろんな分野をまたぎ、多くの人の協力が必要となるプロジェクトマネジ メントの中で、お金を効果的・効率的に利用する方法、あちこちの組織との 戦略的な協力体制、初期における広い視点の重要性、日ごろからの地域における 顔の見える関係の必要性を痛感しました。そこで、初めて知ったのです。日本 では、災害後に母子に起こった精神的・身体的・社会的影響の詳細を分析・ 体系化・検証し、学術的な根拠を持った支援方法をまとめ、政策を作るための 研究がされていなかったということを。また、災害時でもお産があって当たり前 なのに、日本国内では救助する人がお産を扱う教育プログラムが確立されて いませんでした。被災地に駆け付けた人々のほとんどが、「お産は専門外」と 怖がって妊産婦さんや新生児をどう扱えばよいのかわからなかったのです。 避難所から妊産婦や乳幼児が姿を消した中で母親たちを探し回り、安全を確かめ ながら、母子の保護と支援のあり方についてきちんとした対応が決められて いなかったことを痛感しました。  そこで、今回の災害後で実際に自分が行った妊産婦・小児支援活動について アセスメントを加え、このような母子保健分野での災害医療ニーズに効果的に 応えることができる仕組みづくりをしよう、と研究をしています。最終目的は、 地域住民の健やかな暮らしの実現であり、そのために安心して暮らせる心地 よい居場所としてコミュニティ防災の仕組みを作ることです。中期的な目標は、 (1)どんな状況でも医療従事者がお産に対処できる知識や能力を維持するため、 世界的共通教育方法であるAdvanced Life Support in Obstetrics(ALSO)を 受講して出産前のリスク評価ができ妊娠中の病気に対応できるよう救急医療、 看護、保健所等の必須教育内容とすること、(2)災害時の妊婦、授乳婦、乳児の 受け入れ、対応についての計画すべき内容(母子が安全に避難できる場所、 母乳育児援助に精通した人員の確保、災害時に対応できる医療従事者の配置) を明らかにすることです。妊娠・出産・子育てまで全て連続した流れで家庭 生活や家族まで含めた女性や子どもの支援を行い、子どもを産みたくなるよう な町、未来への希望が持てる町にして地域コミュニティを元気づけ、健康な 暮らしができる町にしたい、というのがその先のビジョンです。 ハーバード公衆衛生大学院での仕事はこちら: http://www.hsph.harvard.edu/research/honami-yoshida/ 日経メディカルブログ 「子育てしながらハーバード留学!」 http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/blog/yoshida/ 日経BP Ecomom 「ママこそ美しく健やかに」 http://www.nikkeibp.co.jp/ecomom/column/dc/dc_028.html Child Research Net 「被災地レポート」 http://www.blog.crn.or.jp/lab/06/01/ 日本医事新報 「考えてみませんか? 働くこと・楽しむこと」 http://blog.jmedj2.com/archives/cat_10097657.html _________________________________ ●平成20年度特別課程「看護管理者研修」を受講して (公衆衛生情報2011.4号より著者及び出版社の許諾を得て転載) 「国立保健医療科学院の研修受講者が自治体に戻ってリーダーを養成」 堺市健康福祉局健康部保健所 感染症対策課  中出幸子 −評価演習研修を受講後、市に戻って中堅者研修を企画−  平成20年度、国立保健医療科学院の看護管理者研修で保健師活動の評価 について学習しました。  3週間の研修期間中、計6回の評価シート作成の演習を行い、PDCAサイクル の考え方を学びました。目的・目標・評価をシートに書き表すとすっきりと 整理できることを実感し、心にストンと落ちるものがありました。どんな 事業や活動も、同じ方法で整理、評価できると感じました。  講師からは、「考え方の整理です。こうでなければならないというものでは ありません」と教わり、「演習グループのメンバーとは、苦しまなければ 友だちにはなれませんよ」と冗談交じりの一言をいただきました。それは、 参加者が自分の頭を整理し、シートを作成する過程では苦労する反面、完成後 に大きな学びが得られるという意味でした。  この研修の最終日には自治体に帰ってから研修を活かして何を実行するかを 所信表明しました。私は、「中堅者を育成します」と誓いました。有言実行。 自分が言ったことはやり遂げなければと思いました。  このとき、堺市に戻ってからの活動イメージができ上がりました。すなわち、 科学院の研修を受講した者が伝えるよりも、中堅者自身が実行すべきことを 自覚できる研修を実施すれば、いっぺんに市全体に広がると思ったのです。 その後、科学院の講師にスーパーバイザーとしてご協力いただき、中堅者を 対象として、年間を通して活動実践をしながら評価シートを完成する方法で 実施する研修を企画しました。  本市では、7行政区に保健センターが8か所あり、本庁の健康増進課が成人業 務の統括を行います。当時、私は後者に所属し、担当の保健師は私1人でした。 保健センターであれば職場内で伝達することも可能ですが、本庁から各保健 センターに伝えることは困難なので、各センターから中堅者を集めて伝えたい と考え、評価シートを用いた研修を計画しました。一方で、科学院の講師に 「何としてもわが市に講師として来ていただきたい」と依頼を重ねました。 −国立保健医療科学院講師により効果的な生きたシートへ発展−  堺市では平成14年度から独自の業務計画立案シートを使って毎年、職場内 で報告会等を行っていました。しかし、シート活用の継続的な学習がなかった ために形骸化し、年度末に職場内でその内容を発表するだけで、発表が終れば シートを目にすることなく、年が過ぎるという状態となっていました。 ところが、科学院講師のスーパーバイズによる研修を実施したことでそれが 改善されました。  その効果として、保健師の活動を個人単位に終わらせず、シート作成段階 から複数の保健師同士で話し合いをするプロセスを大切にできるようになった 点が挙げられます。つまり、1保健師が担当する地区活動のシートであっても、 中堅者として自分の担当地区以外にも目を向け、校区ごとの成人や母子の事業 の活動を比較し、それを全体でカバーし合って、達成度の低い地域については センター全体で取り組み、水準を上げるという発想が重要だ、という意識に 変化したのです。保健センター全体で地域の状況を共有し、職場内で話し合う プロセスを大切にする活動は、この研修を通じて少しずつ広がっています。  科学院講師に現場に出向いて研修を実施していただいたことで、保健師の質 が高まったと感じています。すなわち、各事業等を何のために実施しているかを 確認する習慣を持ち、見えないものを見える形にすることの大切さを自覚し、 さらに保健師活動のなかで数字ではなかなか表現しにくい部分や、アウトカム の変容に至っていないものの中間的な指標が変化しているなどのプロセスを、 わかりやすく表現できればいいという意識を持つに至ったのです。  平成22年度には、前年度の研修課題を分析し、研修対象者を中堅者から 各保健センターの係長・リーダー級に変更し、内容も地区活動から事業評価に 移行させました。職場の中心となる係長・リーダー級を通じて波及効果を大きく する、というのが狙いです。なお、研修対象以外の受講希望者も参加できる形 にしています。 −科学院研修受講者がファシリテーターに!−  この間、科学院講師から、スーパーバイズは研修期間の最初と中間と最後の 3回だけにして、その間は科学院研修の受講修了者がファシリテーターを 務めるように、との助言がありました。  そこで、同じ科学院の研修修了者である仲間が力を合わせればできるかもと 考え、それらのメンバーとチャレンジすることにしました。早速、関係者で 集まり、研修内容やスケジュールを検討しました。そして、私と平成18年度、 19年度、21年度の研修受講者を加え、研修受講者をグループ分けし、 それぞれのメンバーがファシリテーターとなってワークショップを進めました。  この研修は、参加者間で意見交換し、国立保健医療科学院の講師に記入した 評価シートを送り、アドバイスを受けるというもの。ちなみに平成22年度は、 ファシリテーターがもう1人加わり、同じスタイルの研修を実践しています。 各ファシリテーターはそれぞれ、科学院講師から学んだことを出し合い、当時 の研修資料などを集め、共有化しました。もちろん、研修受講者にもそれらを 配布し、研修受講者を通じて各職場に広めるなど、有効に活用しています。 −ともに育つプロセス重視の研修を全国のためにも続けてほしい−  3週間にわたる研修は、市民の税金を使った派遣研修ですので、「市に必ず 還元する」という決意が当初からありました。そのため、研修も学んだことを 還元するという思いで計画しました。  私が行ったことは、科学院で学んだことを市に広めるきっかけづくりだと 思っています。科学院から学んだことをその講師、そして歴代の科学院研修 修了者、統括保健師などの力により、さらに深め、その結果、中堅者が育ち、 職場が活性化し、形骸化した評価シートがより効果的に活用されるように なって市全体に広がったのだと思います。  私たちの仕事は次の世代につないでいくことが大事で、私自身いつも、 できることを自分の担当の間に少しでも広げようと取り組んできました。 前任者から受け継いだこと、そして自分が少し広げたこと、それを後任に伝え 保健師の仕事を脈々と続けていくこと、それが何より大切です。  私の先輩保健師が退職するときに残した「1人の100歩より100人の 1歩」という言葉があります。これを旨に今後も仲間と保健師活動を実践して いきたいと思います。堺市としても研修受講者がファシリテーターを担い、 職場で話し合うプロセスを大事に、みんなで評価シートを効果的に活用した 地域や事業の評価ができるようにしなければなりませんが、科学院講師の スーパーバイザーとしての存在が当市の保健師の評価の技術とモチベーション を高めてくれています。手間隙かけた研修だからこそ、人は学び実践し広げ たいと考えるのだと思います。  自分を変え、新しい考え方を身につけ、自分の考え方の整理をつけられる ようになれたのは、科学院の研修受講者たちと時間をかけて意見を交換し、 ともに育つプロセスを踏んできたためです。私自身それを体験したからこそ、 現場に帰ってから「プロセスが大事」と言えるようになりました。  国立保健医療科学院には、演習を中心とした研修を、これからも全国の 仲間のために是非とも提供し続けてほしいと願っています。 _________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会