◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第47号 2011/1/24) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★★ メールマガジン第47号 ☆★ _________________________________ □ 目次 [科学院だより] ○第4回 保健医療科学研究会のご報告  1.シンポジウム   「地域保健について」(座長:曽根 智史)  2.発表プログラム   A.健康危機管理(座長:奥田 博子)   B.生活習慣病対策(座長:瀧本 秀美)   C.医療情報・マネジメント(座長:藤井 仁)   D.暮らしと環境(座長:鍵 直樹) _________________________________ ●第4回 保健医療科学研究会のご報告  1.シンポジウム  「地域保健について」  本シンポジウムは、「地域保健について」をテーマに、4名のシンポジスト を招いて行われた。最初の演者の日本大学医学部公衆衛生学分野教授の大井田 隆氏は、現在まで2回開催されている厚生労働省健康局の「地域保健対策検討会」 の委員としての立場から、保健所業務の考え方を健康危機管理、医療計画、 特定保健指導などに関連づけて話し、今後の課題として「救貧」がクローズ アップされると述べた。  続いて、愛知県健康福祉部技監の柴田和顯氏が、本庁の立場から、愛知県の 地域保健の状況を予算や組織体制の観点から説明した。また、二次医療圏内の 健康指標の改善に向けた取り組みや大規模食中毒対応をはじめとするいくつかの 事例を示した。  東京都福祉保健局感染症危機管理担当部長の前田秀雄氏は、健康危機管理対策 の視点から、保健所の強化ポイントは、1.疫学調査機能、2.地域の連携体制の 構築、3.Health Communication、4.危機分析・評価、5.臨機応変な組織体制、 にあると述べた。また、2009年の新型インフルエンザ対応の経験から、地方衛生 研究所との連携や普段からの医療機関との連携の重要性等を指摘した。  最後に科学院公衆衛生看護部主任研究官の中板育美氏は、保健師の人材育成 サイクルの課題を示し、自分で考え、気付き、表現する「自立型人材」の育成が 急務であると述べた。また、そのための人材育成環境について、いくつかの提言 を示した。  ディスカッションでは、地域保健の業務をどう評価に結びつけるのか、県型保 健所と市町村の役割、公衆衛生人材のキャリアパス、情報とコミュニケーション 等について議論された。また、フロアからの意見として、地域で支援が届き にくい孤立した低所得者層、非正規労働者層に対するアプローチは公衆衛生の 原点であり、研究共々活性化させるべきとの意見が出た。 (座長:曽根 智史)  2.発表プログラム  A.健康危機管理  第4回保健医療科学研究会の発表演題プログラムのトップが、健康危機管理 分野の研究でした。当該分野の発表には同窓会員、科学院職員を含む6題の演題 登録がありました。エントリーされた演題の詳細については、第4回保健医療 科学研究会プログラムのページを参照にしていただきたいと思いますが、 健康危機管理分野の定義が地域保健の多様な専門領域を包括した分野で示されて いるように、今回の発表内容も、“健康危機管理に従事する専門職の人材育成 に関する研究”、“国内や海外の感染症に関する研究”、“健康安全・健康 危機管理対策総合推進研究事業の研究課題や評価に関する研究”、“医療施設 の耐震に関する研究”など、研究テーマは幅広いものでした。また、研究の 内容面においてもソフト(人)からハード(建物)まで、国内から海外までと 多種多様な研究についてうかがうことができる分野の発表であることが特色の 一つでした。  研究発表方法は全て講演形式をとり、1演題の発表時間は8分という短い時間 でしたが、研究発表者は、健康危機管理分野の取り組みに馴染みのない聴講者 も想定し用語の定義に関する詳細な説明、わかりやすい図表や資料の提示は もちろん、動画を取り入れるなどの視覚上の工夫もこらし、研究目的から結果 までのプロセスの全てを、簡潔・明瞭に発表していただきました。また、 質疑応答時にはフロアから活発な意見や質問があり、聴講者の関心や意識の 高さを感じました。また、意見交換を通じてさらなる研究発表内容の理解や、 今後の取り組みへの示唆を得ることにもつながったという感想も聞かれました。  さらに、全ての研究会発表プログラム終了後に開催された懇親会の場に おいても、発表者を囲みアルコールで労をねぎらいつつ、質疑の時間では不足 していた意見交換がなされ、研究発表者と聴講者がより親密に、研究題材を “つまみ”とし交流することができました。この研究会は、多様な実践の現場 で活躍される多くの同窓生のみなさまや、科学院職員との協働実践などの研究 成果の発表の場としても期待されるところです。研究発表というノルマを一つ 課すことで、日常の取り組みをあらためて振り返り見直すことや、新たに 見出された成果を存分にPRできる機会ともなります。また、今後の活動のより 発展的な取り組みに向けて、科学院の職員や他の同窓生との新たな出会いや 接近(?)の場にも活用できるなど、他の学術学会にはない科学院主催の 研究会ならではのお得どころ満載です。当該研究分野の発表に関わらず、 「まずは聴講と交流を目的に行ってみよう」という参加も大歓迎です。来年度 の研究会では、さらに多くの方々のご参加があることを心待ちにしております。 (座長:奥田 博子)  B.生活習慣病対策  このセッションでは、地域の高齢者のQOL、特定健診、そしてフィリピン での禁煙教育が取り上げられた。  最初の発表では、地域高齢者の咀嚼能力と全身の健康状態との関連性に ついてであった。自身の咀嚼力を十分であると認識している高齢者では、栄養 状態や身体能力も充実していることが示された。次の発表では、特定健診 未受診者の健康リスクに関する考察が行われた。特定健診の受診率が高い地域 ほど脳血管疾患や心疾患に関して特筆すべき事項を有する者の割合が高かった ことから、受診率の低い地域では健康リスクを有する住民が見過ごされて しまう可能性が示唆された。最後の発表では、フィリピンの中学校における 喫煙プログラムへの取り組みが生徒の喫煙に与える影響を学校単位で比較した もので、取り組みに熱心な学校ほど喫煙予防の効果が高いことが示唆された。 (座長:瀧本 秀美)  C.医療情報・マネジメント  このセッションではバラエティに富んだ研究報告がなされた。 冒頭では、環境の経済的価値の測定などに用いられる仮想市場法を用いて、 特定健診制度の価値を推定した研究が発表された。また、この研究では支払 意志額に影響を与える要因についても考察が加えられていた。  第二の発表では、神経難病ネットワークの構成機関に求められる役割と機能 についての調査結果が報告された。構成機関である協力病院は、保健所が期待 する役割を十分に満たせていない現状が明らかにされた。  第三の発表は、放射線診療リスクに関するウェブサイトによって得られた、 医療従事者のリスクに対する理解水準についての報告であった。医療従事者 であっても放射線リスクに対して十分な知識を持っておらず、疑問を解消する 手段も乏しい現状が明らかになった。  最後の発表では、医療資源の適正配分についての報告がなされた。地域住民 の医療重要と医療資源との関係について検討した結果、住民の受療行動の実態 と地域的構造が明らかになった。  このセッションの報告は経済学や地理学等の背景をもち、幅広い学際領域に またがっており、座長としては非常に興味深い報告ばかりであった。 (座長:藤井 仁)  D.暮らしと環境  本セッションについては,5題の発表があった。  山形県庄内保健所松田氏による「入浴事故実態結果報告と今後の課題」に ついては,科学院長期課程において受講した講義を元に,地元に帰られてから 実施したとのことであった。入浴事故については寒冷地方において死亡事故が 多く,また実態も正確に把握していないことから各地におけるその把握は重要 である。結果として気温や年齢などの関連性が見られ,今後は対策の方法等に ついて問題提起を行うとのことであった。  三菱化学メディエンス(株)の高橋氏から「環境アセスメントにおける健康 影響評価と活動報告」と題し,行政によって行われている開発事業の環境影響 評価の報告書などを元に,海外における動向,リスク評価手法などから,環境 影響評価のあり方について言及したものであった。  科学院研修企画部寺田氏より「環境衛生監視員の研修ニーズ調査結果に ついて」報告があり,環境衛生監視員の今後の専門性や必要な研修について 貴重な要望が示され,今後の教育訓練事業に反映させるとのことであった。  科学院建築衛生部阪東氏より「在宅で暮らす肢体不自由児の入浴介助の現状 と課題」と題し,その保護者を対象に現状の把握を行ったもので,高齢者の 介助とは異なる問題点が浮き彫りになり,今後の適切な入浴介助につながる ものであった。  科学院水道工学部岸田氏より「水道クリプトスポリジウム検査への遺伝子 検査法導入に関する研究」について発表があり,現行の検査法と遺伝子検査法 導入の課題について検討したもので,遺伝子検査法では感度試験で試料から 安定した検出・定量が示され,今後は多くの試料により実績を積むことの 必要性について示した。 (座長:鍵 直樹)   ___________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会