◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆   国立保健医療科学院同窓会 メールマガジン(第31号 2009/3/9) ◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆ ★★ メールマガジン第31号 ☆★ 同窓会発足時より、doblogの無料ブログを「トピックス」コーナーとして 利用しておりましたが、かなり長期にわたって障害が続いており、今後も 完全な復旧が見込めそうにないため、同窓会サーバ内に新しいBlogを 作成いたしました。それに伴い、URLも変更されます。 旧:http://www.doblog.com/weblog/myblog/77493 新:http://www.niph-doso.gr.jp/blog お手数をおかけしますが、リンク等のURLをご変更ください。 記事の復旧にはもう少しお時間をいただくことになります。 誠に申し訳ございません。 今後とも、国立保健医療科学院同窓会へのご協力を よろしくお願いいたします。 国立保健医療科学院同窓会ホームページAdmin 藤井 仁 【掲示板に書き込み募集中】 __________________________________ □ 目次 [科学院だより]  ○科学院往来   成木弘子 公衆衛生看護部長着任挨拶  ○研修案内   「住まいと健康」研修 __________________________________ ●科学院往来 「思い」を科学に 課題は評価システムの構築と保健師活動の理論化         国立保健医療科学院 公衆衛生看護部長 成木弘子 【リード】 東北大学に移られた平野かよ子前部長の後任として、10月から国立保健医療 科学院・公衆衛生看護部長に着任されたのが成木弘子さん。前職の京都大学 教授時代をはじめ、大学勤務のときには一貫してヘルスプロモーションの 研究を続けて来られました。看護理論室長も兼任する気鋭の理論派である 新部長に、保健師活動の方向についての見通しと、公衆衛生看護部長と しての抱負を語っていただきました。 【本文】 計画の段階から評価を組み込んだシステムを ―よく言われることですが、今まで保健師はなぜその存在価値を積極的に  アピールしてこなかったのでしょうか? 成木 それは古くて新しい課題ですね。保健師は住民の力を引き出すことを 目指して活動してきたので、自分たちはできるだけ背後にいて住民が 「自分たちの力でここまでやった」と思うことを善しとしてきました。 でも、保健師が黒子に徹する時代はもう終わったのかもしれません。 今は活動成果をアピールしていかないと、保健師の機能がより強く求め られている中で、役割を市民に伝えられず地域でその機能が十分発揮 できなくなったらどうなるのか。そういう危機感はあります。 ―アピールをするにあたって、大切なことは何でしょうか? 成木 この問題は、今さかんに言われている「評価」と密接に関連しています。 長いスパンでみれば保健師活動が地域によい変化をもたらしてきたのは 確実ですが、活動の評価システムがないところで実施してきたので、 変化を目に見えるかたちでとらえきれていません。そのため、客観的なデータ として第三者にアピールすることが難しくなっています。  アウトプット評価を重視するようになったのは最近のことで、 従来は健康教室への参加人数などのプロセス評価が中心でした。 本当に保健師活動の効果があったのかという評価は、社会的にも強くは問われて こなかったのです。 人々の行動や習慣は複雑な要因によって作られているので、それに関わる 保健師活動の評価はとても難しいところがあります。でも、考えようによっては それほどでもありません。活動を始める前に「成果を何で測るのか」を決めて おくことは比較的簡単にできるからです。評価の指標は腹囲やヘモグロビンA1c など客観的なものや、住民のまちづくりへの関心度のような主観的なものなど、 いろいろですが、いずれにしても、活動を計画する段階でいかに評価を 組み込んだシステムをつくれるかがポイントです。   長期的な支援の視点を忘れずに ―評価のスケールやシステムは保健師単独のものとお考えですか? 成木 臨床では、医師、看護師、臨床検査技師などいろいろな職種がかかわるので、 皆が使える共通のスケールとして検査値があります。同時に、看護職がケアをする ときに使うスケールもあります。地域保健においても、かかわるスタッフが共通で 使うものと保健師が使うものの両方を組み合わせて評価をしていくことが重要で、 保健師だけが使えるスケールでよいということではないと思います。 評価システムをつくるのは、事業を展開する主体となる人なので、保健師のことも あるし、他の様々な職種や機関のこともありますが、事業に参加するスタッフが 議論をしながら決めていくのが求められています。 ―その評価が重視されているのが特定健診・保健指導です。これを推進していく  立場ということですが、率直なご意見をお聞かせください。 成木 保健師には、住民の参加するモチベーションが高いか低いかをアセスメント して、それに合わせて適切な助言・指導をしていけるかどうかが問われています。 裏を返せば、今までの保健指導の蓄積を生かせる、またとないチャンスといえる でしょう。  また、今回は短期間にウエスト減少などの成果を出すことが求められていますが、 適切な指導をすれば一時的には成果を出せると思います。肝心なのは、それを継続 させられるかどうかで、途中で挫折してリバウンドを起こすと、結果として 余計太りやすい体質になってしまうので、細く長く一生にわたって続けていかれる ような地域ケアシステムの構築を含めたサポートが求められています。 特定保健指導では短期間に成果を出すことを頭の隅に入れつつも、長い人生に おいてウエイトコントロールが持続できるようにするという視点を持って取り組む 必要があると思います。 健康課題の根源は「関係性の障害」 ―今、地域でさまざまな問題が噴出していますが、  根本にある問題は何だと思われますか? 成木 一番大きな問題はコミュニティの崩壊でしょう。周囲の人に子育ての相談も できないし、気持ちが落ち込んだときに支えてくれる人もいない。サポートが ないので虐待もエスカレートしてしまいがちです。健康問題を増幅している根源に あるのは関係性の障害です。世代を超え、障害のあるなしを乗り越えて、 人と人とがゆるやかにつながりあっているのが健康な地域で、そこをつないで いくのが保健師の役割なのだと思います。 ―公衆衛生看護部長として、これからは何を重視していかれますか? 成木 保健師はよく「思い」ということを口にします。私は、これからは 「思いを科学に」する時代なのだと思います。この言葉は慶應義塾大学の 金子仁子先生が使われていたものです。 例えば「家庭訪問でその家に風穴を開ける」という表現があります。家族だけで 固まっているところに、ほかの人が入ることでコミュニケーションのパターンを 変えたり、視野を広げたりするという意味ですが、これを科学的に考えると どうなるか。個人も家族も地域も、それぞれ一つのシステムを構成しています。 そのシステムがクローズドになると、中でエネルギーを消耗してしまいますが、 外側との行き来をすることでエネルギーの代謝がよくなります。つまり、 「家庭訪問で家に風穴を開ける」という表現は、「開放的なシステムをつくる」と 言い換えることもできるのです。今まで文学的、比喩的に表現されてきた保健師 活動のあり方に理論を適用して科学的に説明していくわけです。 保健師活動の歴史の中で、先輩たちが残してくれた貴重な経験がたくさんあります。 それを理論でどう解きほぐしていくか、地域看護学を実践の科学としてどう 構築していくかが重要だと考えています。 編集部から  成木さんに初めてお会いしたのは「保健所保健師活動事例作成検討会」の傍聴の とき。座長として的確に議事進行する姿が印象的だったので、インタビュー時に その話をすると、「検討会の座長は初体験だったので、どうでしたか?」。えっ、 そうなんですか? そんなエピソードを持ち出すまでもなく、非常に優秀な方です。 加えて、とってもエレガント。誌面の都合で、取材時にお聞きしたことのすべてを 紹介できないのは残念ですが、今後の保健師が進むべき道をはっきり見据えて いらっしゃることがよく分かりました。  一男一女の母。最近ハマっているのは「カラオケ」で、竹内まりやの『人生の扉』 はレパートリーの一つとか。50歳を過ぎてから、こんなにも素敵な人生が 広がっている……たおやかなメロディにのせ、過ぎ去った時を愛しみつつ未来への 希望をうたう歌詞は、まるで成木さんの心情を語っているような気がします。 プロフィール  なるき・ひろこ 聖路加看護大学卒業。同大学大学院修了、博士(看護学)。聖路加国際病院看護師、 東京都中野区保健師、聖路加看護大学講師、日本赤十字看護大学助教授をへて、 平成17年4月から京都大学医学部保健学科教授、19年4月から京都大学大学院医学 研究科教授。20年10月から国立保健医療科学院公衆衛生看護部長。好きなことは、 神社やお寺巡り、お花見、カラオケ。スポーツはスキー。京大勤務時代からの 自転車愛好者。「スーツ姿で乗るの?と言われているんですが…OK」。 モットーは、「美しく、暖かく、しなやかに!」。 ※「月刊地域保健」☆2008☆12月号の「Face2008」(1〜5p)に掲載されたものです ___________________________________ ●研修案内 研修案内 「住まいと健康」研修(6月8日から開講予定)                         建築衛生部 鈴木 晃 公衆衛生活動が都市の居住環境の改善を掲げて始まったことは知られていますが、 健康な暮らしを守る基盤としての住まいの意義は現代でも失われていないでしょう。 欧米諸国のHousing Act(住居法)に相当する法律を持たない日本ではとくに、 公衆衛生技術者が住まいの問題にどのように関わるかが重要な意味をもっています。 いわゆるシックハウス問題についての相談がひところより少なくなってきたことで、 「住まいと健康」問題への積極的な取り組みが停滞している状況も一部見受けられる ようですが、「住まいと健康」問題は化学物質による室内空気汚染問題だけでは ありません。WHO欧州支局が示しているヘルシー・ハウジング(健康住宅)の条件を みると、ダニやカビを含めた室内空気はもとより、さまざまな衛生的環境の確保 (新しい課題としてはペットの衛生的環境など)、あるいは住宅内事故や高層住宅の 問題など広い範囲におよんでいます。アレルギーや子どもの発達環境、在宅ケア環境 など、新しい「住まいと健康」問題にも対処していくことが要請されています。 「住まいと健康」研修はこのような状況認識から開講されています。住民が健康に 住むための技術支援ができるように最新で体系的な知識と対応技術を修得し、 住民に対する住環境教育や新しい事業に応用できる能力の獲得を目標としています。 研修修了後に、受講者の地元で健康教育の場や調査事業で具体的な展開がなされて いる事例も散見されています。 「住まいと健康」研修では、環境衛生監視員と保健師がそれぞれの専門性に 立ちながら、健康な暮らしを守る住まいについて共修することも狙いの一つです。 対人保健と対物保健の連携の方法についても、グループワークなどによって確認する 機会になるものと思います。それぞれの専門性を補強するための別メニューも 用意しています。スケジュールは以下のとおりですが、詳しくは保健医療科学院の ホームページ平成21年度研修案内 (http://www.niph.go.jp/entrance/h21/course/short/short_kankyo03.html) を参照してください。 研修期間:6月8日(月)〜6月26日(金) 受付時期:3月9日(月)〜4月10日(金) ___________________________________ 発行 :国立保健医療科学院同窓会